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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)45号 判決

参加人主張の審決取消事由の有無について検討する。なお、審決は、本願発明について、第一の発明と第二の発明とを順次検討判断しているが、その判断内容は実質的に同一であるから、以下、両者を本願発明として、一括検討することとする。

1 第一引用例について

成立に争いのない丙第四号証によると、第一引用例には、原告が請求の原因四の2に指摘するとおり、「本発明の方法は、決して例示された型式に限定されるものではない。したがつて、例えば、帯の平行部分は必ずしも水平である必要はない。この部分が竪型で等しい長さの装置を使用し、重合性物質は直接にニツプ中に仕込まれ重合されたシートを垂直方向に下から取り出すことが可能である。平行な部分が任意の中間の角度に設置されるような装置も、また使用できる。」との記載があることが認められる。

右記載によれば、第一引用例には、重合性組成物の通路が、水平位置から垂直位置までの間の任意の角度に設置されうること、換言すれば、水平に対して傾斜させるようにすることが示されていることは明らかである。

したがつて、審決が、第一引用例のものにおける重合体組成物の通路について、前記のとおり認定したことは、その限りにおいて誤りはない。参加人は、この点に関し、第一引用例のものにおける重合体組成物の通路を傾斜させることによつて重合性物質に圧力を発生させ、これによつて上方走行帯(上側の無端ベルト)の重力による撓みを矯正させることを開示していないとするが、審決の右認定部分は、このような点についてまで言及したものではない(なお、この撓みの矯正の点は後述する。)から、原告の右主張は当らない。

2 相違点<1>に対する審決の判断について

本願発明や第一引用例、第二引用例における重合体組成物の連続注型に用いられる無端ベルトを両端のローラにより張力をかけて水平に支持しようとする場合、ベルトの長さが短かいときには、実質上水平に支持できるが、ベルトの長さが次第に増加し、ある長さ以上になると、ベルトの重力により撓みが生じ実質上水平に支持することができなくなり、これをあえて水平に支持しようとすると、強大な張力をかけなければならず、その場合には、無端ベルトがその張力に抗しきれず切断されてしまうであろうことは、経験則上容易に推測できるところである。

ところで、本願発明における無端ベルトの長さや重量については、特許請求の範囲中に、具体的数値をもつて規定されてはいない。しかし、成立に争いのない丙第三号証及び前掲発明の要旨によると、本願発明の特許請求の範囲には、その無端ベルトについて、「二つの表面は二つの無端ベルトの一部であつて上部の表面はもし両表面を前記の帯域中で水平にしたならば前記流体及び下方の表面に向つて下向きにわん曲するような寸法及び重量のものである」、との限定がされていることが認められ、このことからすると、本願発明における無端ベルトは、その下向きにわん曲する程度が両表面を実質上相互に平行かつ表面間の間隔を予め定められた距離に保つことができない程度のものであることが明らかであり、このことは、無端ベルトの寸法及び重量を規定したものというべきである。なお、この場合、無端ベルトが両端のローラによつて充分に張力がかけられ緊張されている状態下でのことであることは、本願発明の明細書の記載からみて明らかである。そして、前掲丙第三号証によると、本願発明の明細書の発明の詳細な説明中には、実施例として、ベルトの通路の長さが約一六五フイート(約五〇・二九メートル)のものが示されている。

他方、前掲丙第四号証によると、第一引用例のものは、上方の無端ベルト5を支持するドラム1と3の中心間の距離が、七フイート六インチ(二・二九メートル)であり、下方の無端ベルト6を支持するドラム2と4の中心間の距離は九フイート(二・七四メートル)であり(なお、第一引用例における無端ベルトは、金属製であることが明示されている。)、これ以上に長大のものは示されていないことが認められる。

ところで、無端ベルトの撓み量は、ベルトの長さ、重量、これに加わる張力の大きさなどによつて決せられるものであることはいうまでもないが、第一引用例のものにおける右程度の長さの金属製無端ベルトでは、両端のドラムに加える張力によつて実質上水平に支持し、下方にわん曲しないようにすることが充分可能であると解され、かつ、上方の無端ベルトを下方にわん曲しないようにすることにより、上、下無端ベルトの間を等しい間隔にすることが望ましいことは、いうまでもないことであることを考え合わせるときは、第一引用例のものが、そのようなものであると解するについて妨げとなる特段の事情を見出すことができない。

そうすると、本願発明と第一引用例のものとの間には構成上顕著な相違があるものというべく、審決がこのような点について配慮することなく、「第一引用例のものにおける無断ベルトは、可撓性の金属バンドで構成されているから、もし重合帯域中で水平にしたならば、両ドラムで張力をもつて支持されているとしても、下方に向かつて自重によりわん曲することは自明のことである。」としたうえ、相違点<1>は、実質的に同一であるとした点は、誤つているというべきである。

3 相違点<2>に対する審決の判断について

成立に争いのない丙第五号証によると、第二引用例には、次の記載があることが認められる。

(一) 「本発明は、……上下を解放し、かつ、型間に空間が出来るようにした加熱合せ金型を垂直又は傾斜して設け……たことを特徴とする。……本発明装置においては、特に液状の合成樹脂成型組成物を使用し、これを柔軟性フイルム袋中を傾斜して流して型に導入するため、型に入る前及び硬化前の型の中で樹液中の気泡は飛散する。そのため、従来のこの種成型機において必要とされていた気泡除去のための加圧又は真空装置は必要とせず、また、液体樹脂の落ちる力によつて適当に加圧され、型に容易に圧入され、型の加熱により硬化成型され、フイルムと共に型より連続的に取出される。」

(二) 「本発明装置の一実施例並びにその操作法を図面により説明する。1は金属性型板で、これは一定の空間を保つて並行に向い合つた金属製板で作られ、垂直又は傾斜して設ける。」

(三) 「型板1中においては、フイルム空間に満たされた樹脂液の圧力によつて、フイルムは金属製型板1に密接し、型板と同じ形状となる。この間、樹脂液中の気泡は、冷却パイプ8による冷却効果と傾斜流動とにより、上昇飛散する。」

以上の記載から、第二引用例のものは、樹脂液の通路が金属製の型板によつて構成されていることは明らかなところ、右金属性の型板は、可撓性がなく、水平にした場合でも、下方に向つてわん曲するものではないから、通路に液状の樹脂を充填する前から、通路を形成する両型板の面が実質上相互に平行を保持しており、かつ、表面間の間隔も予め定められた距離に保たれているものであると解される。そして、前記の記載に徴すると、第二引用例のものにおいて樹脂液の通路を傾斜させるゆえんは、樹脂液中の気泡を飛散させて除去すること及びフイルム袋中に満された樹脂液を型内に容易に圧入し、フイルムを金属製型板に密接させ、型板と同じ形状にすることにあると認められる。

以上のことからすると、審決が相違点<2>に関して、「通路を傾斜させることにより、液状の組成物に流体圧力を生じさせ、組成物をして一定の圧力をもつて、フイルムを介して型板に圧接するようにしたものは、第二引用例に記載されている。」とした点は、第二引用例のものが、既にみたとおり、通路を形成する型板の両表面が可撓性がなく、初めから実質上相互に平行であり、かつ、表面間の間隔も予め定められた距離に保たれているものであつて、本願発明における無端ベルトのように、水平にした場合に下方に向つて実質的にわん曲する面により通路が形成されるものではなく、したがつて、通路の傾斜による流体圧力により上側ベルトのわん曲面を押し上げて、二つの表面間の間隔を予め定められた距離に保たせるようなものでは全くない。そうすると、第二引用例のものも、液体の組成物に流体圧力を生じさせるものであるとしても、このことが、二つの表面間の流体の圧力によつて、可撓性のある無端ベルトの両表面を実質上相互に平行かつ表面間の間隔を予め定められた距離に保つに充分なものとなるように通路を傾斜させるというような本願発明の要旨に係る技術的思想を示唆しているものとは到底考えられない。

そうすると、相違点<2>について、第二引用例のものから容易に推考することができるとした審決の判断には、誤りがあるというべきである。

4 以上のとおり、審決が相違点<1>及び<2>についてした判断は誤つているところ、この誤りは、審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、審決は、違法として取消しを免れない。

〔編註その一〕 本願発明の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

本願発明の要旨

(1) 重合しうる有機単量体から成る流体組成物を漏洩防止手段を縁に沿つて有する二つの移動表面と接触させながらその間に通し、前記組成物と移動表面とを前記単量体を重合させる条件の下に前記組成物を置く少なくとも一個の帯域を通過させ、前記表面の一つを他の一つの上方に配置し、形成された重合体シートを前記の両表面からとり去ることから成る実質上硬質のシート及びその類似品を製造する重合体組成物の連続注型方法において、前記二つの表面は二つの無端ベルトの一部であつて、上部の表面はもし両表面を前記の帯域中で水平にしたならば前記流体及び下方の表面に向かつて下向きにわん曲するような寸法及び重量であつて、下部の表面はわん曲に抗して支持されており、前記帯域中の前記両表面により形成される通路は水平に対して傾斜しており、この傾斜は前記表面間の流体圧力が両表面を実質上相互に平行かつ表面間の間隔を予め定められた距離に保つのに充分なものとし、重合中に起こることのある組成物の収縮を補整するのに充分な程度に前記両表面を収束し、それによつて前記両表面が重合中前記組成物との接触を保つようにすることを特徴とする方法。

(2) 流体組成物から実質的に硬質のシート類を連続的に製造する重合体組成物の連続注型装置において、第一表面と第二表面、前記第一表面の少なくとも一部分が前記第二表面の少なくとも一部分と実質上平行である通路に前記第一表面を移動させる手段と前記第二表面を移動させる手段(前記第一表面はもし両表面を注型帯域中で水平にしたならば前記流体組成物及び第二表面に向かつて下向きにわん曲にするような寸法及び重量であり、前記第二表面はわん曲に抗して支持されており、前記両表面の前記の実質上平行な部分は水平に対して傾斜しており、この傾斜は前記両表面間の流体圧力が前記両表面間の間隔を予め定められた距離に保つのに充分なものとする。)及び前記の平行な部分によつて規定される通路の少なくとも一部分に隣接して位置する前記表面を加熱する手段から成ることを特徴とする装置。(別紙図面(一)参照)

審決の理由の要点

1 本願発明の要旨

前項に記載のとおり

2 引用例の記載

(一) 米国特許第二、五〇〇、七二八号明細書(以下「第一引用例」という。)には、次の記載がある。

「可撓性の金属バンド5、6、駆動ドラム1、2、従動ドラム3、4を有する無端ベルト装置を、ベルト表面が実質的に平行になるように上下に配置し、該無端ベルトの両表面と、金属バンド6の端縁を囲むように設けられた可撓性のゴムガスケツト7、11とによつて重合性組成物の通路を形成させ、該通路を取り囲んで可熱装置9を設け、右通路は水平に対して傾斜させるようにすると共に、前記両表面は重合帯域においてわずかに接近させるようにした重合性組成物の連続注型装置と、該装置を使用して、重合しうる有機単量体から成る流体組成物を移動する前記表面と接触させながら、その間に通して、前記単量体を重合させる条件の下に置く帯域を通過させ、重合による組成物の収縮に追従して前記両表面が組成物との接触を保つようにしつつ、シートを重合形成させ、該シートを前記、両表面から取り去ることから成る硬質のシート及びその類似品を製造する重合体組成物の連続注型方法。」(別紙図面(二)参照)

(二) 特許出願公告昭三五―四九七八号特許公報(以下「第二引用例」という。)には、次の記載がある。

「二つの金属製型板を傾斜させて配置し、その間に両端縁を挟持した二枚のフイルムを搬送するようにし、該フイルム間に液状の合成樹脂組成物を流入させて、樹脂液の圧力によつて、フイルムを介して組成物が型板に圧接し、型板の形状どおりに成形されるようにした合成樹脂板の連続注型装置。」(別紙図面(三)参照)

3 本願発明の特許請求の範囲記載第一番目の発明(以下「第一の発明」という。)と第一引用例のものとの対比

(一) 一致点

重合しうる有機単量体から成る流体組成物を漏洩防止手段を縁に沿つて有する二つの移動表面と接触させながら、その間に通し、右組成物と移動表面とを右単量体を重合させる条件の下に組成物を置く少なくとも一個の帯域を通過させ、右表面の一つを他の一つの上方に配置し、形成された重合体シートを前記の両表面から取り去ることから成る実質上硬質のシート及びその類似品を製造する重合体組成物の連続注型方法において、前記二つの表面は、二つの無端ベルトの一部であつて、前記帯域中の両表面により形成される通路は、水平に対して傾斜しており、重合中に起こることのある組成物の収縮を補整するのに充分な程度に前記両表面を収束し、それによつて右両表面が重合中組成物との接触を保つようにすることを特徴とする方法であること。

(二) 相違点

<1> 第一の発明は、無端ベルトの両表面について、上部の表面は、もし両表面を前記単量体を重合させる帯域中に水平にしたならば、流体組成物及び下方の表面に向かつて下向きにわん曲するような寸法及び重量であつて、下部の表面は、わん曲に抗して支持されているというように限定していること。

<2> 第一の発明は、通路の傾斜について、表面間の流体圧力が両表面を実質上相互に平行かつ表面間の間隔を予め定められた距離に保つに充分なものとなるように傾斜させるというように限定していること。

(三) 右(二)の相違点についての判断

(1) 相違点<1>について

第一引用例のものにおける無端ベルトは、可撓性の金属バンドで構成されているから、もし重合帯域中で水平にしたならば、両ドラムで張力をもつて支持されているとしても、下方に向かつて自重によりわん曲することは自明のことであり、また、金属性のベルト体(これも自重により当然わん曲する。)をわん曲に抗して支持することは、連続成形装置として慣用されている技術的手段である(例えば、特許出願公告昭三四―三三五号特許公報(以下「第三引用例」という。)参照)から、相違点<1>は、実質的に同一である。

(2) 相違点<2>について

通路を傾斜させることにより、液状の組成物に流体圧力を生じさせ、組成物をして一定の圧力をもつて、フイルムを介して型板に圧接するようにしたものは、第二引用例に記載されており、流体圧力をどのような値にするかは、設計上必要に応じ、当業者が容易に選択できるものであるから、相違点<2>は、当業者が容易に推考できることである。

(四) したがつて、第一の発明は、第一、第二引用例のものから容易に発明をすることができたものである。

4 本願発明の請求の範囲記載第二番目の発明(以下「第二の発明」という。)と第一引用例のものとの対比

(一) 次の点で相違するほかは、両者は一致している。

<1> 第二の発明は、無端ベルトの両表面について、上部の表面は、もし両表面を注型帯域中で水平にしたならば、流体組成物及び下方の表面に向かつて下向きにわん曲するような寸法及び重量であつて、下部の表面は、わん曲に抗して支持されているというように限定していること。

<2> 第二の発明は、通路の傾斜について、表面間の流体圧力が両表面の間隔を予め定められた距離に保つに充分なものとなるよう傾斜させるというように限定していること。

(二) 相違点についての判断

右の相違点は、第一の発明に関する<1>、<2>の相違点と実質的に同一であるから、これについてした前3の(三)の判断と同様である。

(三) したがつて、第二の発明もまた、第一、第二引用例のものから、容易に発明をすることができたものである。

5 よつて、本願発明は、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

別紙図面(三)

<省略>

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